「うちの研修、助成金が使えますよ」
AI研修の営業でそう言われた、という話を最近よく聞きます。
実際、使える制度はあります。
中小企業なら研修費の75%が戻り、受講中の賃金にも助成が付きます。
うまく使えば、100万円の研修が実質20万円台になることもあります。
ただ、2026年8月3日から、この制度の中身が変わりました。
AI研修のうち、はっきり「対象外」と名指しされたものがあります。
しかも厚生労働省の資料には、こう書かれています。
生成AIを利用するために汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ講義は、助成対象外。
プロンプトの書き方を教わる研修。
いま世の中にあるAI研修の、かなりの部分がこれに当てはまります。
研修を申し込んでから「対象外でした」と分かるのが、いちばん困ります。
計画届は訓練の前に出すものなので、あとから直すことができません。
この記事では、申し込む前に確かめられる形でお伝えします。
この記事を読むのにかかる時間の目安:約10分
この記事の内容
01そもそも、どの制度の話か
AI研修に使える助成金として案内されるのは、ほとんどの場合これです。
人材開発支援助成金の、事業展開等リスキリング支援コース。
厚生労働省の制度で、窓口は都道府県の労働局です。
新しい分野へ事業を広げるとき、あるいはDX化・GX化を進めるときに、社員へ訓練を受けさせる費用を支援するものです。
✓ おおまかな中身
- ●研修費の75%が戻る(中小企業の場合。大企業は60%)
- ●受講中の賃金にも、1人1時間あたり1,000円の助成(中小企業。大企業は500円)
- ●訓練は10時間以上であることが必要
- ●令和8年度(2026年度)が最終年度とされている
最後の一行が、実務では一番大きいかもしれません。
このコースは令和8年度で終わる予定です。
使うつもりがあるなら、動く時期は限られています。
なお、対象になるのは雇用保険に入っている社員の受講分です。
社長や役員の分は含まれません。
同居のご家族は原則として雇用保険に入れないので、ご家族だけで回している会社は、人数がいても対象にならないことがあります。
022026年8月3日に変わったこと
厚生労働省が「令和8年8月3日からの変更点について」という資料を出しています。
変わったのは、大きく2つです。
変更された2点
- 1対象とならない訓練が、はっきり書かれた
- 2同じ人が受けられる回数に、上限がついた
1つめについて、資料にはこう書かれています。
DX化・GX化に関する訓練のうち、次の目的のものは助成対象外である、と。
厚生労働省の資料より
・職業、または職務に間接的に必要となる知識・技能を習得させる内容のもの
・職業、または職務の種類を問わず、職業人として共通して必要なるもの
読みにくい表現ですが、言いたいことはひとつです。
「その人の仕事に、そのまま使える中身になっているか」。
全社員が同じ内容を学ぶような、一般的なAI講座。
これは「職業人として共通して必要なもの」に当たり、対象から外れる可能性が高くなりました。
03対象になる研修と、ならない研修
ありがたいことに、厚生労働省の資料には具体例が載っています。
これがそのまま判断の物差しになります。
出典:厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)改正 令和8年8月3日からの変更点について」
上と下の違いは、たったひとつです。
「営業担当者が、商品提案書を作るために」という具体が入っているかどうか。
資料には、対象外の理由も書かれています。
特定の業務への具体的適用を伴わない汎用的内容であるため、と。
ほかにも、対象外の例が挙がっています。
✗ 対象外とされた例
- ●DXの概念、デジタル技術の概要、データ活用の考え方を学ぶ研修
- ●脱炭素の基本理念や国際情勢、GX化で企業に求められる対応を学ぶ研修
いずれも「共通知識の習得にとどまり、具体的作業として業務に直接適用されるものではない」ためとされています。
つまり、概論は落ちます。
「AIとは何か」「これからの時代に必要な考え方」から入る研修は、内容がどれだけ良くても、この制度では通りません。
04「誰に受けさせるか」も要件です
ここが、意外と見落とされている点だと思います。
厚生労働省の資料には、確かめるポイントとしてこう書かれています。
訓練内容に沿って対象労働者を選定しているか。
つまり、同じ研修でも、誰が受けるかで結論が変わります。
資料に挙がっている例が分かりやすいので、そのまま紹介します。
研修の中身は同じです。違うのは、受ける人がその業務を担当しているかどうかだけです。
これをAI研修に当てはめると、意味がはっきりします。
「全社員にAIリテラシーを」という研修は、通りにくいということです。
全員が受けるということは、その人の担当業務に沿って選んでいない、と見られます。
これ、制度の都合を抜きにしても、正しいと思うんです。
全員に同じことを教えても、たいてい定着しません。
実際に困っている業務がある人に、その業務のやり方として教えるほうが身につきます。制度がその形を求めているのは、理にかなっていると感じます。
05受講回数に上限がつきました
もうひとつの変更が、回数の制限です。
✓ 回数の上限
- ●同じ人が助成を受けられるのは、1年度に3回まで
- ●そのうち、eラーニングによる訓練は1年度に1回まで
- ●年度は4月1日から翌年3月31日(支給申請日が基準)
- ●2026年8月3日以降に出した計画届の訓練から数えられる
気をつけたいのは、eラーニングの枠が1回しかないことです。
動画を見て学ぶ形式の研修を年に2つ受けさせると、2つめは助成が出ません。
オンラインの研修を検討している場合は、形式を確かめてください。
録画を各自で見る形なら、eラーニングとして数えられます。
決まった時間に集まって講師とやり取りする形なら、通常の集合研修と同じ扱いです。
なお、この変更には経過措置があるとされています。
すでに計画を出している場合は、労働局に確認してください。
06実際に、いくら戻るのか
数字を出したほうが早いので、ひとつ例を置きます。
中小企業が、3人に12時間の研修を受けさせた場合です。
※スマートフォンでは表を横にスクロールできます
| 項目 | 金額 | 計算 |
|---|---|---|
| 研修費 | 660,000円 | 3名・12時間 |
| 経費の助成 | −495,000円 | 研修費の75% |
| 賃金の助成 | −36,000円 | 1,000円×3名×12時間 |
| 実質の負担 | 129,000円 | — |
66万円が、12万9千円になります。
制度が使えるかどうかで、5倍の差がつくということです。
ただし経費の助成には、1人あたりの上限があります。
人数が少なく単価が高い研修では、上限に当たることがあるので、事前に確かめてください。
それから、お金が戻るのは研修が終わったあとです。
先に全額を支払い、あとから申請して受け取る流れになります。
資金繰りの上では、いったん出ていくお金として見ておく必要があります。
07やってはいけない使い方
ここは、お金を扱う立場としてお伝えしておきたい部分です。
これをやると、助成が受けられなくなります
- ●研修会社が裏で値引きや協力金を出し、実質の負担を軽くする
- ●見積書や請求書の金額を、実際の取引額と変える
- ●受けていない時間を、受けたことにする
「助成金が出るぶん、お安くしますよ」。
そう言われたら、いったん立ち止まってください。
助成金と値引きを結びつける形は、不支給の理由になります。
もうひとつ、申請の手続きについて。
助成金の申請を代行できるのは、社会保険労務士だけです。
研修会社が「申請もこちらでやります」と言う場合、その会社に社労士がいるのか確かめたほうがいいと思います。
うちも研修は行いますが、申請の代行はしません。
顧問の社労士さんがいらっしゃれば、その方にお願いしてください。
研修を行う側としては、要件に合う形で書類を整えることまでが役割だと考えています。
08申し込む前のチェックリスト
研修会社から提案を受けたら、この6つを確かめてみてください。
ひとつでも引っかかったら、その場で聞いたほうが早いです。
✓ 申し込む前に確かめる6つ
- 1カリキュラムに、受ける人の実際の業務名が入っているか
- 2「AIとは」「これからの時代」から始まっていないか
- 3受講者を、その業務の担当者から選べているか
- 4訓練時間が10時間以上あるか(半日や1日では足りない)
- 5オンラインの場合、録画を見る形か、決まった時間に集まる形か
- 6助成金を前提にした値引きの話が出ていないか
計画届は、訓練を始める前に出すものです。
始まってからでは直せません。
だからこそ、申し込む前のこの確認が効きます。
09まとめ
✓ この記事のまとめ
- ●AI研修に使える助成金はある。中小企業なら経費の75%と賃金の助成
- ●2026年8月3日から、汎用的な内容の訓練は対象外と明記された
- ●プロンプトの作り方を学ぶだけの講義は、対象外の例として挙げられている
- ●「誰に受けさせるか」も要件。全社員向けの研修は通りにくい
- ●同じ人が受けられるのは年3回まで。eラーニングは年1回まで
- ●助成金を前提にした値引きは不支給の理由になる
- ●令和8年度が最終年度とされている
制度を知っているかどうかで、負担が5倍変わります。
そして、知らずに申し込むと、あとから直せません。
AIを入れること自体は、もう避けられない流れだと思います。
だからこそ、入れ方でこれだけ差がつくところは、丁寧に見ておきたいですね。
この記事の情報について
本記事は、厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)改正 令和8年8月3日からの変更点について」および同コースの案内をもとに、2026年9月時点の内容をまとめたものです。
助成金の制度は改正されます。実際に申請される際は、必ず管轄の労働局、または社会保険労務士にご確認ください。
記載の試算は条件を単純にした例であり、支給を保証するものではありません。
研修を終えたあとに待っているのが、毎月のAI利用料です。
その見方については、こちらにまとめました。
なお、fulfullでもAI研修を行っています。
この記事に書いた要件に沿う形で組んでいますので、参考までにご覧ください。
fulfullでは、企業さま向けにお金の勉強会や研修を行っています。
AI研修の組み立て方についてのご相談も承っています。
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